帰化植物(きかしょくぶつ)は、植物に属する外来種である。普通、維管束植物の範囲で考える。 帰化植物は、単に国外から入った植物の意味ではなく、人為的な手段で持ち込まれた植物のうちで、野外で勝手に生育するようになったもののことである。意図的に持ち込まれたものも、そうでない(非意図的な)ものも含まれる[1][2][3][4]。 外来種にはさまざまなものがあるが、ヒトが移動の際に伴う生物の種数としては植物の方が多いようである。例えば作物と家畜の種数を比べればその差は大きく、意識的に運ぶものでは植物がはるかに多い。植物は景観を構成するので一般の注目を引きやすい面もある。そのため、帰化植物は広く人目につきやすい。 作物以外にも園芸や牧草、林業などの目的で植物は運ばれる。それに付随し、あるいは無関係に意図せぬ形で持ち込むものもある。いわゆる雑草にはその例が多い。用語としては栽培植物が野生化したものに対しては逸出帰化植物(いっしゅつきかしょくぶつ)という言葉もあるが、栽培逸出(さいばいいっしゅつ)と称して帰化植物と見なさない場合もあり、その場合には、より狭義の使い方として帰化植物は意図せずに持ち込まれて野生化したものだけを指す。しかし、この両者は区別し難い場合もあり、大抵はまとめて扱われる。 帰化植物は人間の活動とともに存在したと言ってもよいほど非常に古い歴史があり、世界的に分布する雑草はほとんどその可能性がある。近世以降、人間の移動が飛躍的に広く早くなるに伴って、生物移動もはるかに多くなった。 帰化という言葉から分かるように、この語は国外から入って自生的に生育するようになった植物を指す言葉である。しかし自然にとっては国境には大きな意味はない。日本は他国と領土が連結しておらず、その内部においては比較的まとまった生物相を持つため、その外から侵入したものを判別するのは簡単であり、その異質性も理解しやすい。しかし、国内においても本来異質な植物相を持つ地域の間で移動させた植物は帰化植物と言っていい状況が見られる。日本では小笠原諸島に持ち込まれた植物にそのような例が多い。 帰化植物と言えば普通は維管束植物の範囲で考えるが、海藻にも帰化種があり、イチイヅタ 日本本土の植物(シダ類まで含む)が約4000種、そのうち帰化植物は1200種と言われている[5]。 恐らく最も古いものはヒトの伝来にまで溯らねばならない可能性がある。少なくとも、農耕文化は多くが国外からもたらされたものであり、それらは同時に多くの帰化植物をもたらしたと考えられる。現在も農村や畑周辺に見られる雑草にはそのようなものが多いのではないかと前川文夫は考え、これを史前帰化植物と呼んだ[6]。ただし、彼がその例として挙げたものの中には自生ではないかと言われているものもある。古代以降、江戸時代までは時代によって様々ではあるが国外との物流は持続し、帰化植物の種数は増えていったと考えられる。しかし、江戸末期からは物流は一気に激しくなり、帰化植物は急増する[7]。そこでこの時期以降の帰化植物を新帰化植物[8]、それ以前のものを旧帰化植物[9][10]と呼ぶこともある。一般的に帰化植物と言えば主として新帰化植物を指し、帰化植物図鑑などもほとんどがその範囲である。 帰化植物のほとんどは草本である。それも一年草が多い。これは、後述するようにその生育環境が人里であることもその理由のひとつであるようだ。しかし、樹木に例がない訳ではない。日本ではいわゆる帰化植物ではモクマオウなど、日本国内移入種で九州から中部地方へのアオモジの例があるくらいであるが、いわゆる史前帰化植物[11]ではクスノキやナギなどの例がある。海洋島では樹木の移入種の例も多い。これは一つの理由としては、原産の樹木が少ないため、木材生産用に持ち込まれる例が多いためである。日本国内ではあるが、琉球列島から小笠原諸島へアカギとリュウキュウマツが持ち込まれ、在来の植生を圧迫している。 分類上の位置は非常に広範囲にわたるが、群によって帰化種の多いものとそうでないものがある。キク科[12]とイネ科[13][14]の種が多いのが目立つ。これにマメ科を加えて「帰化植物の3大科」との声もある。これらはそれぞれに高等な分類群であることが知られている。しかし、同じように高等な群とされているラン科植物には帰化種がほとんどない。 侵入の経路としては、植物の持ち込みを意図した場合とそうでない場合がある。全くそうでない例は、様々な機材に種子などが付着して持ち込まれる場合である。完全に意図して持ち込まれるのは栽培植物として持ち込んだものが野外に逃げ出す場合である。動物は、普通は逃げ出さない条件下で飼育されるが、植物はそのような配慮がなされないから、逃げ出すのは簡単である。おおよそは以下のようなものが挙げられる。 この両者の中間として次のような場合もある。 普通は人為的に撹乱された場所に侵入しやすい。例えば都市のさら地などでは、放置すれば帰化植物ばかり生えてくることが少なくない。外国との物資の出入り口である港や空港には特に帰化植物が多く見つかる。同様に工場や駅などの物資の出入り口にも帰化植物が入りやすい。鉄道線路のバラストを敷き詰めたような厳しい環境であっても、むしろビロードモウズイカなどは好んで生育する。沖縄県などの米軍基地が所在する地域では、軍事物資にまぎれて帰化植物が侵入する事がある。沖縄県全域に生育する帰化種のシロノセンダングサ(タチアワユキセンダングサ)は、1969年代に嘉手納基地に侵入し、そこから広がったとされている(土屋・宮城、1991)。 多くの植物はそのような場所で繁殖するものの、すでに古くからの雑草で埋められている農村や、より自然環境の保存された場所にはあまり侵入しない。日本のタンポポに関しては、在来種とセイヨウタンポポの間にそのような関係があるとされ、都市化の指標生物としてセイヨウタンポポが指定され、その分布調査が行われたこともある。帰化植物の優占する路傍 しかし、日本では河原や湿地、池沼などでは外来種が侵入し、在来種に置き換わる例が少なくない。そのような環境はもともと一定の撹乱を受けつつ成立している側面があること、それに現在の日本では水環境に富栄養化などの環境悪化が進んでいることなどが原因とも言われる。 長期にわたって栽培されていながら、ほとんど逸出していない植物もある。
概説
日本の場合
特徴
侵入と定着
作物(ハマダイコン、クレソンなど)
薬用植物(チョウセンアサガオなど)
牧草(コヌカグサ、ナピアグラスなど)
園芸植物(ムラサキカタバミなど)
材木用の樹木(小笠原におけるリュウキュウマツなど)
その他:緑化用(シナダレスズメガヤ、ギンゴウカン
栽培を意図して持ち込んだ植物に紛れて入る場合
作物には、その畑に生育する雑草が付随する。これらを特に随伴植物という場合もある。そのような雑草は作物の種子に紛れて収穫され、次回も一緒に播種されるように適応したものがあり、当然のように作物の種に紛れて運ばれ、一緒に持ち込まれる。牧草や被覆植物などではそれほど混入を気にしない例もある。
植物質ではあるが栽培を意図しないものに紛れて入る場合
例えば培養土とともに入る例である。日本では検疫で土の持ち込みが禁止されているが、ミズゴケなどは認められているので、それと共に入ることもある。その他、乾燥した植物を荷造り時の詰め物にしたものから入った例(シロツメクサが有名)もある。
白い花はヒメジョオン・高く伸びたのはタチスズメノヒエ